1. HOME
  2. 鳥類
  3. 概要

鳥類

  • 概要
  • 参考文献
  • 用語解説

概 要

愛媛県の鳥類相

 愛媛県ではこれまでに336種の鳥類が記録されている。このうち、98種は台風などにより本来の分布域を大きく離れて記録された迷行種や不定期に渡来する種である。渡りの区分でみると、一年を通じて愛媛県内に生息する留鳥が71種、夏に東南アジアなどから渡来し、繁殖する夏鳥が37種。シベリアなど北方で繁殖し、越冬するために渡来する冬鳥が74種、シベリアなどの繁殖地と越冬地であるオーストラリアなどの間を移動する途中に立ち寄る旅鳥が56種となっている。これらの記録される種の多さは、愛媛県内の多様な自然環境に由来しており、標高の高い山に生息する種から海岸、海上に生息する種までが記録されている。
 石鎚山系など標高の高い地域には、主に亜高山で繁殖するメボソムシクイ、ルリビタキ、カヤクグリ、ビンズイ、ホシガラスが生息する。これらの種は、標高1700m以上の限られた地域でのみ繁殖していると思われる。愛媛県の大部分を占める森林のほとんどは人工林であり、鳥類の生息に適した環境とは言い難い。肱川流域などの常緑広葉樹の森林では、冬にどんぐりを食物とするアオバトの群れが見られ、近年は減少しているが水辺にはオシドリが渡来する。森林性の鳥類では、県内に同じような環境があるにも関わらず、ヤイロチョウやミゾゴイが東予で見られないか、極めて少ないといった特徴がある。里山から住宅地にかけては、亜高木の森林を好むヒヨドリやメジロ、林縁を好むホオジロが多い。水田は稲の成長に伴って利用する種が変化し、田植えの時期にはサギ類の餌場となり、稲刈りの後にはアトリ、カワラヒワ、カラス類が多くみられる。住宅地や市街地では、かつては冬鳥であったハクセキレイが一年を通じて生息するようになり、繁殖も確認されている。
 多くの島の存在も愛媛県の特徴であるが、斎灘の無人島でウチヤマセンニュウが繁殖していることが明らかにされた(小川2011)。また、宇和海の島嶼部に生息しているとされていたカラスバトが、忽那諸島の有人島を含む多くの島にも生息していることが明らかになった(小川2012)。宇和海の島ではオオミズナギドリの繁殖が確認された。島は面積が狭く、森林も未発達なため、繁殖する陸鳥の種数は少ないが、ウチヤマセンニュウやカラスバトのように、四国本島では繁殖が確認されない種が繁殖する特徴がある。東予地方の海岸には比較的まとまった面積の干潟が存在し、多くのシギ・チドリ類やクロツラヘラサギ、ヘラサギなどの希少な種が記録されている。

希少種の選定

 鳥類は比較的観察者が多い分類群であるが、愛媛県で個体数の変化を定量的に捉えられている種はいない。全県的な分布調査は、クマタカ(日本野鳥の会愛媛県支部1994)、コマドリ(日本野鳥の会愛媛県支部1994)、ハヤブサ・ミサゴ(日本野鳥の会愛媛県支部1996)、オオヨシキリ(山本・小川2006)、ミゾゴイ・コノハズク(日本野鳥の会愛媛未発表)の各種で行われているものの、比較検討するに至っていない。本調査においては、これまでに蓄積された観察記録約38,000件を基に、江崎・和田(2002)の手法を参考に評価対象種を選定し、希少種の評価を行った。まず、愛媛県で記録のある336種のリストから、迷行種、不定期渡来の種を除いた。これまでの観察記録が10件程度と少なく、毎年連続して記録のない種については、不定期渡来とした。そのため、2003年の評価で対象とされた、カラフトアオアシシギ、シベリアオオハシシギ、コシャクシギ、ヘラシギ、サンカノゴイは不定期渡来と判断し、今回の評価の対象とはしなかった。次に普通種とされる種を除き、各種の個体数の現状、生息地の状況、個体数の変化、生息地の脅威を数値として表し、対象種を選定した。数値は愛媛県内での観察歴の長い方々にアンケート形式で問合せ集計した。しかし、個体数の現状や変化について不明な種が多く、最終的には数値での評価に定性的な判断を加えカテゴリーを決定した。
 愛媛県内に生息する種の亜種については、知見が不十分なため、評価の対象とすることができなかった。キジは四国では亜種トウカイキジが生息していたと考えられるが、狩猟のために産地不明の亜種が放鳥され、交雑により亜種トウカイキジの特徴を持つ個体の存在そのものが不明となっている。また、ヤマドリは亜種シコクヤマドリと亜種ウスアカヤマドリが生息しているとされるが、両亜種の分布状況や個体数の現状は把握できなかった。
 広範囲を移動する鳥類特有の問題もある。ルリビタキやビンズイは、冬には北から越冬のために渡来する個体群もいると考えられ、低地でも比較的多くの個体を見ることができる。一方、繁殖個体群は石鎚山系など標高の高い極めて限られた地域でしか確認されておらず、個体数も少ない。同じ種でありながら、繁殖個体群と越冬個体群で評価が大きく異なることとなる。そのため、各種の解説において、特に繁殖個体群に対する評価を行った種について明記することとした。

愛媛県の鳥類の保全に向けて

 現在、愛媛県で鳥類の生息に影響を与えている事象として、放棄人工林、圃場整備、河川改修、山火事が挙げられる。森林において、天然林伐採の脅威はなくなってはいないが、近年、新たに天然林が伐採されることはほとんどなくなっている。しかし、愛媛県の森林の6割は人工林であり、拡大造林の時代に森林伐採により鳥類の生息地が大きな影響を受けた。また、手入れがなされずに放置された人工林では、下層植生が乏しく、生息する鳥類も限られている。長期的には生産性の低い人工林においては、樹種の転換を図る必要がある。
 圃場整備では小規模な水田を集約し、放棄耕作地の解消や生産性を向上させるために乾田化や水路の改修が行われる。ヒクイナは草本の茂る環境と水田が接する箇所を好み、ハイイロチュウヒ、チュウヒ、コミミズクは放棄水田など、高茎草本が茂る環境を塒としている。そうした環境をなくすることが圃場整備の目的でもあり、これらの種への影響は大きい。一方で収穫機械の大型化により、水田内に残される落ち籾の量が増加し、カラス類などが冬に安定した食物を得られるようになっている。河川改修では、ヨシが茂る環境が消失することが多く、ヨシゴイやクイナの生息に影響を与えている。山火事は春に瀬戸内海沿岸の森林で発生することがあり、大面積が消失することもある。延焼による直接的な影響の他、樹洞が生じるような大径木の森林が回復するまでカラ類など樹洞で繁殖する鳥類にとっては生息が困難となる。
 ブッポウソウ、コノハズク、コウノトリ、ツル類においては、保全のための活動が行われるようになってきた。ダム湖では越冬するカモ類のために、ボートの乗り入れが規制される動きもある。他の分類群と同様、鳥類の保全においても、各種の生態を十分に明らかにした上で、生息地の環境を改善する必要がある。

執筆者:山本貴仁