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はじめに

 生物多様性は地形・地質・気候等に起因しますが、複雑な環境要因をもつ愛媛県は、南予のビロウなどの亜熱帯植生から石鎚山に分布するシラベの亜寒帯(亜高山)植生に至るまで、植物種の多様性に富み、それが動物種の多様性をも育んでいます。本県に分布が限定される種も多く、例えば地下浅層に生息する小さなチビゴミムシの仲間では、 固有種が40種近く発見されていて学術的にも貴重なホットスポットとなっています。
 わたしたちの生活が生物多様性からもたらされる恩恵(生態系サービス)によって生かされていることを考えると、自然と人間が共生できる「持続可能な望ましい自然」の構築が必要となります。このような背景から、愛媛県は野生生物の生息・生育の現状と問題点を把握してレッドリスト種を選定し、必要な保全策立案の基礎資料とするため2003年『愛媛県レッドデータブック』を作成し環境アセスメント等に活用してきました。
 野生生物は絶えず変化する自然環境や人為的な環境改変の影響を受けているため、生息生育状況を定期的に見直す必要があります。そこで、2011年に「愛媛県レッドデータブック改訂委員会」が設置され、改訂作業が進められてきました。その結果、本県に産す18,739種のうちレッドデータブック掲載種は1,773種となり、2003年に比べ約2割の増加となりました。この背景には今回新たに2つの分類群が追加されたこともあり、単純な比較はできませんが、ますます自然環境保全の重要性は高まっているといえます。
 生物多様性の保全を図る上での問題点としては、野生生物の生息生育地の破壊や分断など環境の悪化、里地里山地域での耕作放棄地や植林放置林の増加などのほか、イノシシ、ニホンジカ、ニホンザル、外来生物のオオクチバス、スクミリンゴガイなどによる生態系への影響、それに伴う農林水産物への被害の増加などが考えられます。
 一方、グローバルな視座から俯瞰すると、人類は科学力により寿命を延ばし、資源を活用して物をつくり、より快適な生活を求めて自然を改変し、「自然の均衡」を破壊してきました。それ故、現在のわたしたちには「自然の摂理」を最大限に尊重する義務と責任のあることを自覚し、望ましい地球の姿に近づくための「ヒトの英知と行動」が求められています。
 日本は食料をはじめ多くの資源を海外に依存していますが、「エコロジカル・フットプリント」によれば、世界中の人々が米国人のような暮らしを始めたら、地球が約5.3個、日本人と同じようなら、地球が約2.4個も必要になります。今、わたしたちには、地球が養える適正な環境容量を認識し、環境への負荷の低減に努め、自然と共生できるよう価値観・ライフスタイルの転換、コンパクトシティなど文明の縮小化を目指すといった、慎ましやかで心豊かな賢明な生き方が求められているのではないでしょうか。
 本書が、愛媛県の生物多様性に満ちた自然環境を次世代に引き継ぐための、また、県民、事業者、行政にとって総合的な自然環境保全のための基礎資料として広く活用されることを切に願う次第です。

愛媛県レッドデータブック改訂委員会 会長 石川和男