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愛媛県レッドデータブック改訂の背景と目的

レッドデータブックと生物多様性の保全

 「愛媛県レッドデータブック」は、県内の絶滅のおそれのある野生生物の種を選定して、その生息・生育の現状と問題点等をまとめ、種の減少の原因を解明し、その保護と生物多様性の保全を図っていく上で重要な役割を担ったものである。
 本書は、これらの野生生物を人為的に絶滅させないよう、各種開発計画の環境影響評価等における環境配慮を総合的・計画的に進めていくための基礎資料となり、さらに、自然保護、自然との共生意識を高めるとともに、生物多様性保全への認識を広く県民に求めたものである。
 地球に生命が誕生して約39億年の間に生物は環境の変化に適応し、直接的・間接的に影響し、支え合いながら進化を遂げ、3千万種以上と推定される生物種に増えて生物の多様性が生み出された。生物多様性は生態系・種間(種)・種内(遺伝子)のレベルから成り、生態系も「自然の摂理」に拠り自然環境の変化に伴い遷移する。
 生物多様性国家戦略2010では、日本の生物多様性の危機として、①第一の危機(人間活動による生態系の破壊、種の減少・絶滅)、②第二の危機(里地里山など人間活動の減少による影響)、③第三の危機(外来生物などによる在来種への影響、生態系の攪乱)、加えて地球温暖化による生態系への影響があるとしている。
 生態系ピラミッドの上位に位置するオオタカはある種の動物の増加を防ぐことにより、生態系の均衡を保つ役割を果たしているが、下位の動物を捕食することによって生かされているので、生物多様性減少の影響を受けやすい不安定な存在でもある。視点を変えれば、オオタカの生息している環境は生物多様性に恵まれた生態系とも言えよう。したがって、希少種の保全は生物多様性に恵まれた生態系を保全することによって可能となる。
 生物多様性は人類存続の基盤となっているが、20世紀後半から地球規模で人間活動による自然環境の破壊が顕在化してきたため、1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において、「生物の多様性に関する条約」が採択され、その後、各国の自然保護行政に影響を及ぼすこととなった。
 世界初のレッドデータブックは、1966年に国際自然保護連合(IUCN)が、哺乳類と鳥類について絶滅のおそれのある種を選定した報告書で、その後改訂が続けられワシントン条約はじめ国際的な野生生物保護の条約や協定、さらに各国の自然保護の施策策定に活用されている。
 わが国では、1989年に(財)日本自然保護協会と(財)世界自然保護基金日本委員会による『我が国における保護上重要な植物種の現状』が発刊され、1991年に環境庁により『日本の絶滅のおそれのある野生生物』として脊椎動物編と無脊椎動物編が刊行された。これらが国レベルの最初のレッドデータブックである。その後、分類群ごとに取りまとめられ、順次選定種や選定区分の見直しが行われてきた。国レベルでの絶滅のおそれのある種の選定は、全国を基準にして行われたものであることから、その地域の自然的・社会的特性に応じて地域レベルで作成する必要があり、47都道府県のほか自治体、学術団体等でも作成されている。
 2010年10月、名古屋市において「いのちの共生を、未来へ Life in Harmony into the Future」をスローガンに開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10 Conference of the Parties)では、「愛知目標(生物多様性新戦略計画)」が採択され、「2050年までに、生態系サービスの恩恵を受けつつ、自然と共存する社会の創造を目指しながら、2020年までに生物多様性の意味と価値を全ての人が理解し、生物多様性の損失を止め回復力のある生態系を確保する」という成果を得た。また、国連は2011年から2020年までを「国連生物多様性の10年」と定めて活動を開始した。

生物多様性の保全に向けた愛媛県の取り組み

 本県では、愛媛県環境基本条例(1996)の基本指針として、人と自然の共生をめざす生物多様性の保全を掲げ、各種の施策が施行されてきた。それらの基盤として、2003年県内の絶滅のおそれのある野生生物をリストアップし、その希少性の評価、生息・生育状況ならびに分布状況を明らかにした「愛媛県レッドデータブック2003」が刊行された。これを踏まえ、2005年には「愛媛県野生動植物の保護に関する基本指針」が策定施行された。そして、2008年には「愛媛県野生動植物の多様性の保全に関する条例」が施行され、13種の特定希少野生動植物と6つの保護区が指定された。保護区では、現在、地元の住民を中心にNPO、自治体、大学等の協働により,ハッチョウトンボ(西条市庄内地区)、カスミサンショウウオ(今治市片上地区、宅間地区)、ナゴヤダルマガエル(今治市大島台地区)、ハマビシ・ウンラン(今治市織田ヶ浜地区)などの保護活動が行われている。
 2008年には生物多様性基本法の制定に依り、本県の指針を見直し2011年「生物多様性えひめ戦略」が策定された。この戦略では本県の課題や現状を踏まえ『100年先も 生きものみんな やさしい愛顔』を実現するため、次の目標を設定し、各種施策や取組を推進することとした。
 目標1「生物多様性の保全と管理」としては①希少生物や保護区の保全②開発事業における環境負荷を低減するための影響評価③野生鳥獣の適正管理④里地・里山・里海の保全と再生⑤外来生物対策の推進など。目標2「生物多様性の恵みの持続可能な利用」としては社会経済的な仕組みを考慮した生物多様性の恵みの持続可能な利用を目指し、ライフスタイルの転換など県民生活における生物多様性の保全の推進など。目標3「多様な人々の連携・協働」としては県民、NPO等民間団体、企業等事業者、農林水産業者、大学等教育機関、行政などそれぞれの主体が目標を共有し協働・連携して推進する。
 これらの目標に向けて、県庁内では横の連携のもとに施策を進めるため県民環境部、経済労働部、農林水産部、土木部、教育委員会、生物多様性センター等の担当者から成る生物多様性保全推進庁内連絡会議が設置された。また、生物多様性国家戦略2010の基本戦略の一つ「生物多様性を社会に浸透させる」に沿って、県民への普及啓発の推進を図るため、2012年から翌年にかけて県内20市町で200を超えるワークショップやセミナーが開催された。
 2012年に設置された愛媛県生物多様性センターは生物多様性保全のための調査・研究をはじめ、情報の収集・分析・公表、普及啓発、人材育成等を担う拠点となっている。

執筆者:石川和男