高等菌類

  • 概要
  • 参考文献
  • 用語解説

概 要

 「菌類」は一般的にカビとキノコ、それに酵母を加えた生物群を指し、主な特徴として①細胞壁を持つ真核生物で、②基本構造は菌糸であり、③光合成をしない、などがあげられる。広義には変形菌類やサカゲツボカビ類、卵菌類などの偽菌類や地衣類までをも含むこともあるが、このRDBでは「狭義の菌類に属する担子菌類と子嚢菌類の一部で、肉眼的な子実体を形成する種群」を「高等菌類」として取り上げた。
 絶滅リスクの判定を行う際には「個体数」と「世代交代」という概念が非常に重要である。すなわち現存個体数の推定や、個体群の減少率の算定により、定量的にリスクを判断する。普段、我々が目にする「きのこ」は、地中あるいは材木中に伸びた菌糸が胞子を撒き散らすために作り上げた「子実体」と呼ばれる器官である。菌類の本体はこの「菌糸」であり、「きのこ」そのものを「個体」とはみなすことはできない。したがって、高等菌類の絶滅リスクの判断は、定性的要件によって判断されることが一般的である。このRDBにおいても、子実体の発生に影響を与える外的要因からリスクを類推する定性的要件によって絶滅リスクを判断した。
 前回のRDBでは、環境省から刊行されたRDB種の選定状況を重視し、さらに沖野登美雄氏の長年にわたる観察記録を加味して種選定を行った。その結果、絶滅(EX)1種、絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)19種、絶滅危惧Ⅱ類(VU)18種、準絶滅危惧(NT)13種、現状不明(DD)18種を選定した。今回の種選定では、前回のRDB刊行後10年間の観察記録を基に種の加除と、自然環境の変容に伴うリスク変化を反映させた。特に里地里山における菌類の発生環境として最も重要であるアカマツ林、あるいは瀬戸内海沿岸の砂浜とその後背地に成立するクロマツ林の減少を考慮し、マツ林に発生する菌根菌や砂地性菌類の絶滅リスクが相対的に高いものとなっている。
 菌類の絶滅リスクを低減するためには、菌類の発生環境を保全する必要がある。これは菌類に限らず、ほかの生物においても同様である。菌類の発生環境は、植物と密接な関係がある。すなわち直接的に植物を発生基質としたり、あるいは特定の樹種と菌根共生関係を結んだりすることが圧倒的に多い。愛媛県の県土は起伏に富み、冷涼な亜高山帯の針葉樹林から海洋の影響を強く受ける暖温帯の照葉樹林まで、多様な環境が成立している。県土の7割が森林に覆われているとされるが、全てが自然林ではなく、森林面積の約6割は菌類の発生に適さない人工林となっている。仮に自然林が残っている場所でも、瀬戸内海沿岸の場合は降水量が少なく、菌類の発生は相対的に少ない。また少なからぬ菌類は海岸のマツ林を好んで発生する。愛媛県は海岸延長が国内で5番目に長いのであるが、その大半は岩礁海岸であり、白砂青松の景観が残っている場所も非常に少ない。一見すると豊かな自然が残っているようにも見えるが、実際には菌類の発生に適した環境は非常に少ない。こうした環境をいかに大切にするかが、菌類の発生にとって重要な課題と言える。
 このRDBを作成するにあたり、学名は勝本(2010)、保坂ほか(2011)のほかインターネット上で公開されている菌類データベースサイト(「日本産きのこ目録2014」など)を適宜参照した。種の配列に関しては系統進化生物研究所編(2004)、杉山編(2005)のほか沖野(2013)などを参考とした。菌類分野では現在、分子生物学的手法による研究が飛躍的に進んでおり、分類体系の見直しが盛んに行われている。このため、種が属する属のみならず、科以上の高次分類群の配列さえも流動的であり、各種類書と学名表記及び配列に若干の相違があることをおことわりしておく。

執筆者:小林真吾