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コケ類

  • 概要
  • 参考文献

概 要

 コケ類は蘚苔類ともいい、緑色植物の一員で葉緑体をもち、独立栄養を行う。セン(蘚)類、タイ(苔)類、ツノゴケ類の3群からなる。コケ植物は小形の植物で、茎の長さはふつう0.5〜5㎝である。コケ植物は進化の過程から見ると、水中から陸上生活への中間段階で、動物でいえば、両生類に似ている。コケ類の生殖には精子が水中を泳ぐことが必須条件で、雨水や露などの水分が不可欠である。コケ類の大きな特徴は、染色体数が複相(2n)の胞子体が、単相(n)の配偶体の上に寄生した状態になっていることである。ふつう、コケとして目にするものは配偶体である。
 セン類の配偶体の葉は細長い三角形で、鋭く尖る物が多く、一見、スギの葉に似ている。細胞も細長い形が多く、細胞壁がしっかりしている。セン類は全世界に約10000種が知られ、日本には1030種が確認され、愛媛県からは397種が記録されている。タイ類の配偶体には2形あり、ゼニゴケのようにコンブ形の群とウロコゴケのように茎の両側に葉が並び、一見、ヒノキの葉に似ている群がある。細胞は円形のものが多く、細胞壁は軟弱である。タイ類は全世界に約8000種が知られ、日本には約620種が確認され、愛媛県からは209種が記録されている。ツノゴケ類の配偶体はコンブ状で、胞子体は細長い角状、葉緑体と気孔がある。ツノゴケ類は全世界に約400種が知られ、日本には17種が確認され、愛媛県には4種の記録がある。
 愛媛県のコケ類の研究史は前報で詳述したので、その後に発表された文献と、新たに見つかった文献から、研究史の補足をする。愛媛県から報告されたもっとも古いコケ類の文献は井上(1896)(明治29年)である。井上は吉永虎馬(1871〜1946)の旧姓で、奥平幹一(1870〜1910)の採集したタイ類11種が報告されている。吉永氏と奥平氏は年齢も近く、親交があったものと思われる。緒方松蔵(1863〜1944)の『南宇和郡植物誌』(1926)は、長らく幻の文献であったが、国立国会図書館に所蔵されていた。コケ類が88種記録されているが、学名がなく、和名も現在使われていないものが多く、セン類とタイ類を区分することも困難で、その実体はよく分からない。緒方氏の標本の所在は不明である。越智一男(1909〜1979)の『東豫蘚類の研究』(1948)は謄写版刷りであるが、故鈴木兵二博士の蔵書中から見つかった。桜井久一博士の同定による44種が載録され、桜井博士が新種(未発表)としたものが63種もある。これらには標本番号がつけてあるので、広島大学宮島自然植物実験所に寄贈された越智氏の標本との対応が可能である。Inoue et al.(2011)は日本産のセンボンゴケ(Pottia intermedia)について従来の報告を検討し、愛媛県から古い標本として松山市と内子町、新産地として大三島・伯方島・大島を報告した。本種は瀬戸内海沿岸に分布が集中し、とくにミカン畑などに多い。人為的な環境に生育することから、帰化植物の1種とも考えられるが、センボンゴケは愛媛県の特色のあるコケ類として、この度、新しく要注目種(AN)に指定した。関(2012)は松山市から記録されたコケ類をまとめ、セン類130種、タイ類98種、ツノゴケ類3種を載録した。藤田・立石・西村(2013)は東赤石山からセン類のRDB種5種を報告した。
 今回、愛媛県カテゴリーの絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)として、セン類24種(新規2種)、タイ類10種、絶滅危惧II類(VU)として、セン類14種(新規2種)、タイ類8種、準絶滅危惧(NT)として、セン類4種、タイ類2種、情報不足(DD)としてタイ類1種、要注目種(AN)として、セン類1種、タイ類1種(いずれも新規)、合計65種を選定した。選定の基準としては、野外において肉眼で容易に識別でき、環境の指標となるような種を中心とした。また愛媛県が新種の基準産地となっている貴重種については、できるだけ載録した。前回と比較して、ランクの移動や削除はなく、新規が6種である。
 愛媛県のコケ類でRDBに載録した種は、次の5群がある。
  • 亜高山帯要素  絶滅危惧Ⅰ類はハグルマゴケ・イシヅチゴケなど8種、Ⅱ類はホソバミズゴケ・フタバムチゴケなど13種、準絶滅危惧はイワダレゴケ・タカネシゲリゴケの2種で、これらの生育地は国定公園など保護区域ではあるが、限られた環境で危険性が高い。
  • 温帯落葉広葉樹林・中間針葉樹林帯の要素  Ⅰ類はクマノチョウジゴケ・カミムラヤスデゴケなど8種、Ⅱ類はキノクニキヌタゴケ・ヨシナガムチゴケなど6種、準絶滅危惧はマツムラゴケ・オオミミゴケの2種で、これらの生育地は森林がよく保護されている地域が多いので危険性は低い。
  • 暖温帯常緑広葉樹林帯要素  Ⅰ類はミズスギモドキ・カビゴケなど9種、Ⅱ類はなし、準絶滅危惧はシダレゴヘイゴケ1種、要注目種はセンボンゴケ・ヤワラゼニゴケの2種で、これらの生育地は県内でもっとも植生破壊の大きい地域であり、危険性がきわめて高い。
  • 石灰岩・結晶片岩など特殊な岩石に分布する要素  Ⅰ類はイワマセンボンゴケ・チャツボミゴケなど5種、Ⅱ類はホンモンジゴケ・セイナンヒラゴケなど3種、準絶滅危惧はコバノホゾベリミズゴケ1種、情報不足はチチブイチョウゴケ1種で、愛媛県として特色のあるイワマセンボンゴケなど「銅コケ」の生育地は銅山の閉山により危険な状態にある。
  • 湿地・湧水・池沼に分布する要素  Ⅰ類はオオミズゴケ・コアナミズゴケ・ウキゴケ・イチョウウキゴケの4種で、本県の水環境は悪化が著しく、きわめて危険性が高い。とくに、本県は地形的に湿地が少なく、その保全は緊急を要する。

 現地調査や文献調査では、久保晴盛氏(広島大学大学院)、現地調査では小澤潤氏(今治市)と上村恭子氏(広島市)にご協力を頂いたので、深甚の謝意を表したい。