高等植物

  • 概要
  • 参考文献

概 要

 愛媛県RDB2003では絶滅(EX)~情報不足(DD)までの掲載種は826種であったが、今回は864種となり、種数では38種が増加している。今回のRDB掲載種数は県内の自生在来種の約26%であり、愛媛県RDB2003と同じ割合である。前回とランクの変更のなかった種は693種であり、これらの種は絶滅危険性に著しい増減がないものの危険性が依然として継続しているものである。
 新たにEXとしたものはマメダオシである。本種は、1970年採取の標本があるが、その後の確実な確認はなく、前回、DDであったが今回、EXと判定した。
 一方、前回はEXであるがその後、現存が確認されて絶滅危惧ⅠA類(CR)にランクが変更となった種は、ミズネコノオ、ウンラン、トチカガミの3種である。ミズネコノオは周桑郡周布村(現在の西条市)の溜め池で確認された古い記録があるが、その後の確認はなく山本(1978)にも掲載されていないため前回はEXとしたが、2012年に南予の溜め池付近で発見された。ウンランは2006年に今治市織田ヶ浜で発見されたもので、現在は愛媛県野生動植物の多様性の保全に関する条例で特定希少野生動植物に指定されている。トチカガミは2013年に今治市内の山間の溜め池で発見され、生育地の状況から自生と判断した。なおアサザは今回もEXとした。近年、県内各地のとくに民家に近い河川や溜め池でアサザの群生が報告されているが、植物体の形態や生育地の状況からいずれも栽培株の逸出と思われることから、自生に限ってはEXであると判断した。
 絶滅危険性が高まったことからランクを上方修正した種は以下の31種である。

CRに変更した種:タニヘゴ、ホオノカワシダ、イチョウシダ、テンリュウヌリトラノオ、トキワシダ、ツクシノキシノブ、デンジソウ、ミシマサイコ、ヤナギスブタ、ノハナショウブ、カガシラ、シンジュガヤ、ノビネチドリ

絶滅危惧ⅠB類(EN)に変更した種:ミヤコジマツヅラフジ、ジュンサイ、ヌマゼリ、アイナエ、エゾシロネ、ハマアザミ、カセンソウ、ツクシタンポポ、オオトリゲモ、アオコウガイゼキショウ、イガクサ、ケシンジュガヤ、ベニシュスラン、コバノトンボソウ

絶滅危惧Ⅱ類(VU)に変更した種:ツリフネソウ、シロネ、セキショウモ、シュスラン

 上記の31種の42%にあたる13種は水田、溜め池、湿地など人里にある水湿地に生育する植物である。
 一方、ランクを下方修正した種は、上記のEXからCRに変更した3種のほかは次の25種である。

ヒメウラジロ、ハンノキ、コケミズ、アゼオトギリ、タコノアシ、カワラサイコ、ツゲ、ラセンソウ、ホソバシロスミレ、カワミドリ、コシロネ、タチハコベ、イワギリソウ、ヒメヒゴタイ、キオン、カンサイタンポポ、ミズオオバコ、ホソイ、コメススキ、イヌアワ、マイヅルテンナンショウ、ミミガタテンナンショウ、カツラガワスゲ、エゾハリイ、ササバギンラン

 このうちキオンは前回のVUからNTに下方修正した。これは、近年、南予山岳で発生しているシカ食害により競合植物が減少した結果、シカの忌避植物であるキオンの個体数が急増したものである。マイズルテンナンショウは、前回はCRであったが、近年、肱川河川敷の竹林で相当数の群生が新たに確認されたことから二段階下げてVUとした。堤防改修の結果、河川敷内の放棄耕作地が竹林となり、その林内に新たに群生したものである。タコノアシの多くは、近年、増加した過湿な放棄水田に新たに群生したものである。それ以外の種の多くは、近年の個体数の増加でなく、前回は確認されなかった自生地が新たに確認されたことによるものである。とくに前回、RDB種に含められたことで注目され、その後の確認情報が多く得られたことも一因であろう。下方修正したことによりその植物の生育環境改善や個体数増加などの絶滅危険性が低下したと判断することは早計である。
 前回はDDであったもので今回ランクが評価された種は46種である。これは近年、新たに自生が確認されたことによるものである。前回と今回のいずれもDDと判定されたものは124種であり、これらの種については今後とも自生確認の調査を継続する必要がある。今回DDと判定した種の中には標本による確実な存在を確認していない種も含まれているが、前回、DDと判定されたもので未確認種は原則的に今回もDDとして継続した。
 新規掲載種は58種である。この中には新規掲載でCRとしたものが8種であり、ツチグリ、ヒロハヌマゼリ、タヌキモは県内の記録はあるが長年、未確認であったものであり、イトクズモ、ヒナザサ、ワタリスゲ、クジュウツリスゲは県内で新発見である。いずれも自生地は極めて限られており、その多くが四国全体から見ても重要な種である。新規掲載種54種を生育環境別(現時点でもっと多く生育している環境)に分けると、樹林・林縁環境では約24種、水田・溜め池・水路など水湿地環境では約21種、畦畔や堤防などの草地では約6種、海浜では約3種となっている。このうち水湿地環境がもっとも多く、ヒロハヌマゼリ、タヌキモ、イトクズモ、ヒナザサのほか、シソクサ、セトヤナギスブタ、イヌノヒゲ類、ハタベカンガレイ、タイワンヤマイなどが含まれている。このことは水田や溜め池、水路など人里の湿地環境において絶滅危険性が高まっていることを示している。また草地環境ではツチグリ、ワレモコウ、ミゾコウジュ、タヌキマメなどが含まれている。いずれの人里においても、かつては普通に見られた環境であるが、農地の土地改良や河川、溜め池の改修工事あるいは耕作放棄などで在来植物の生育地が急速に失われはじめている。今後、県内の生物多様性の保全の視点からは人里の生育環境、とくに水湿地の環境の保全が急迫した課題となっている。
  • 今回の改訂について現地調査およびランクの検討は、以下の18名で組織する高等植物分科会が担当した(各所属は総論の分科会名簿に記載。氏名は五十音順とした)。
    池内 伸、池田恩四郎、伊藤貞夫、伊藤隆之、大高茂範、小沢 潤、川本昌宏、白形毅史、土居泰正、故得居 修、橋越清一、早見萬之助、福岡 豪、藤田栄二、兵頭正治、法橋弥生、松井宏光(座長)、水本孝志
  • 各種の解説の執筆に関わった人は上記氏名に下線で示した。原稿の内容は全員で確認したうえ、最終的には伊藤(隆)、橋越、兵頭、松井が確認した。
  • 分類体系と科名:分類体系は新エングラーに従ったが、科名がAPGによる分類体系と異なるものについては科名の後に( )でAPGによる科名を付記した。
  • 学名:学名は原則としてYList(米倉浩司・梶田忠 (2003-)BG Plants 和名−学名インデックス)に準拠したが、一部の種については他の学名を採用し、その理由は必要に応じて特記事項に記載した。
  • 県内分布:現在までに確認情報のあった地名を市町名(2013年末時点)や山地名などを示した。地名を公表することで採取などの絶滅危険性が高まると思われる種は具体的な市町名を避けた。

執筆者:松井宏光