海岸動物

  • 概要
  • 参考文献

概 要

 愛媛県は瀬戸内海中西部に位置し、燧灘、斎灘、伊予灘から外洋へとつながる豊後水道の各海域に面している。三崎半島で区切られる瀬戸内海内部に属する前三灘は、中国四国地方からの河川水流入により、塩分が薄く、特に梅雨時の河口周辺部はそうである。また、一年を通じて外洋に比べ海水温が低い。これに対し、外洋に面した豊後水道は、黒潮の流れる外洋に近い高塩分環境となっている。また、春季から夏季にかけておこる、瀬戸内海と外洋の塩分・温度差に基づく海水の密度差と潮汐力のバランスの季節的変化により、外洋を流れる黒潮縁辺部の高温海水が豊後水道を一気に北上する急潮と呼ばれる現象が知られている。これは外洋からの生物を瀬戸内海内側へ輸送する過程ともなっていると考えられる。
 このような複雑な自然環境に対し、その生物多様性も豊かであるが、海産動物の経年的広域分布調査はほとんどやられておらず、近年の人による環境改変等に由来する海域における生物多様性の変化は、その把握が困難である。ただ、潮間帯周辺に生息する海岸動物に関しては、身近であることから正確な分布調査は行われていなくても、大きな変化は比較的看取しやすい。また、海岸の改変など人の影響を受けやすい場所でもあることから、海岸動物がRDBの対象として選ばれたのである。
 海岸動物の中でも河口域周辺や砂質・泥質干潟に生息する生物は、特になじみの深いもので、アカテガニやアシハラガニなどのベンケイガニ類は、海岸近くの陸域の水辺にもみられることから市民にはよく知られているであろう。例えば、松山市の白石ノ鼻の海岸には、かってアカテガニが多く生息していたが、海岸通りの道路が整備されてからはほとんど見られなくなった。このような局所的な環境改変に対して、生息場所としての要件を複数もつ生物は敏感に反応する。しかし、一般的に海岸動物は浮遊性の幼生期を持つことが多く、瀬戸内海のどこかに大きな個体群が残されておれば、幼生の供給は毎年可能であり、生息場所さえあれば個体群は維持される。それでも海岸動物の生物多様性が時とともに減少していくとすると瀬戸内海全体の地域個体群が劣化していることを示している。それは海岸動物がRDBの対象となり、モニターの対象となることの重要な意味であろう。

執筆者:大森浩二