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哺乳類

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  • 用語解説

概 要

 日本列島と周辺の海域から、これまでに155種の在来哺乳類の生息が記録されている。さらに、ペットや家畜の野生化を含む自然分布と見なされないもの(以下、移入種という)が16種確認されており、総計は171種となる。
 愛媛県では、県産哺乳類は49種(海生哺乳類を除く)とされてきたが、今回のレッドデータブック改訂にあたり、愛媛県産哺乳類目録(以下、目録という)の見直しを行った結果、総計60種(海生哺乳類を含む)となった。まず和名・学名・分類体系・種の記載順序について準拠する図鑑や文献などを以下のものに定め、次に愛媛県産の種を以下のように定義し、最後に定義に相当するものを愛媛県産哺乳類として取り上げるという手順で行った。
 準拠する図鑑および文献
  • 和名・学名・分類体系は、Ohdachi, S. D., Y. Ishibashi, M. A. Iwasa, and T. Saitoh(2009)The Wild Mammals of Japanとした。
  • 種の記載順序は、環境省編(2002)日本野生鳥獣目録とした。
 愛媛県産の種として定義される条件
  • 日本の在来種で、過去も含めて県内に定着している(していた)種であること。
  • 陸生哺乳類の移入種においては、県内に現在定着している種であること。
  • 海生哺乳類においては、一度限りの偶来種も含め、人の手を介していない状況で確認された(自然分布と思われる)種であること。
 これにより、愛媛県産哺乳類は、陸域で48種(在来種44種、移入種4種)、海域で12種、合計8目22科60種となった。その内訳は、トガリネズミ形目2科6種、翼手目3科14種、霊長目1科1種、食肉目4科10種、鯨目5科12種、偶蹄目3科4種、齧歯目3科11種、兎形目1科2種であった。
 これまでの目録からの変更点は、分類名の一部の記載を変更したこと、新規にいくつかの種を記載したこと、前回記載種の一部を削除したこと、である。目名については、モグラ目をトガリネズミ形目、コウモリ目を翼手目、ネズミ目を齧歯目、ウサギ目を兎形目とした。科名の変更はなかった。種名については、トガリネズミをシントウトガリネズミ、ジネズミをニホンジネズミ、ウサギコウモリをニホンウサギコウモリ、ホンドタヌキをタヌキ、ホンドキツネをアカギツネ、ニホンオオカミをオオカミ、チョウセンイタチをシベリアイタチ、ニホンカワウソをカワウソ、ホンドモモンガをニホンモモンガ、ニホンイノシシをイノシシ、カモシカをニホンカモシカとした。前回記載されておらず、今回新たに記載された種は、前回海産動物分科会で扱われ、今回から哺乳類分科会で扱うこととなった海生哺乳類12種と、新たに定着が確認された移入種2種の計14種である。また、前回記載されていた種で、今回削除された種は、カワネズミとヤマコウモリの2種である。カワネズミは、現在のところ更新世後期のものとされている化石からの記録があるのみであり、採集の記録はない。ヤマコウモリは、文献を精査したところ、詳細な採集記録は記載されておらず、標本の所在も不明であることから目録から削除された。
 定着した移入種として目録に記載された種は、シベリアイタチ・ハクビシン・ノヤギ・アナウサギの4種である。記録はあるものの定着はしていないとして目録に記載されなかった種は、陸域ではノイヌ・ノネコ・ヨーロッパケナガイタチ・アライグマ・プレーリードッグの一種・シマリスである。海域では、1976年伊方町(旧三崎町)で保護されたキタオットセイが候補に挙がったが、自然分布とは考えられず、目録に記載されなかった。
 以上のように改められた目録の8目11科60種の中から生息履歴と生息数を指標にしてレッドリストに記載される評価対象種が選定された。選定された種に対して、個体数・個体数増減・分布状況・生息環境の危険度について評価された。その結果、評価対象種はシントウトガリネズミ・ヒメヒミズ・アズマモグラ・クロホオヒゲコウモリ・ノレンコウモリ・モリアブラコウモリ・ヒナコウモリ・チチブコウモリ・ニホンウサギコウモリ・テングコウモリ・オオカミ・カワウソ・ツキノワグマ・スナメリ・ニホンカモシカ・ニホンモモンガ・ヤマネ・オヒキコウモリの18種となった。前回2003年の愛媛県レッドリストから変更された点は、種の削除と追加、評価の変更である。前回情報不足(DD)とされていたヤマコウモリが、目録から削除されたことによりレッドリストからも削除された。一方前回他の分科会で準絶滅危惧(NT)と評価されていた海生哺乳類のスナメリが、哺乳類のレッドリストに追加され、絶滅危惧Ⅱ類(VU)と評価された。ニホンリスは、前回情報不足(DD)とされていたが、県内での確認情報が比較的多く、分布域も広いことから絶滅のおそれはないものと判断された。コテングコウモリも前回情報不足(DD) とされていたが、その後確認方法が普及し、県内での確認記録が増えてきたことより、絶滅のおそれはないものと判断された。前回情報不足(DD)とされていたシントウトガリネズミ・ヒメヒミズ・アズマモグラ・クロホオヒゲコウモリ・ノレンコウモリ・モリアブラコウモリ・ヒナコウモリ・チチブコウモリ・ニホンウサギコウモリ・テングコウモリのうちモリアブラコウモリは絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)、それ以外の種は絶滅危惧Ⅱ類(VU)と評価された。前回絶滅危惧I類(CR+EN)と評価されていたニホンカモシカについては、愛媛県総合科学博物館所蔵の、戦後まもなく高瀑方面で捕まった個体の毛皮が県内最新の生息記録であり、以後、既に50年以上を経過している。この状況を「過去50年間前後の間に、信頼できる生息情報が得られていない」という野生絶滅の定性的要件と、県産の本種が飼育下でも存在しないことに照らし、愛媛県では絶滅と評価された。ただし、隣接する高知県や徳島県には現在も生息しており、その生息地は本県との県境に接してはないものの、将来的には、分布を広げてくる可能性もあると考える。前回絶滅危惧Ⅱ類(VU)と評価されていたニホンモモンガとヤマネは、前回まで確認されていなかった南予地域でも生息が確認され、生息確認地が増加したことにより準絶滅危惧(NT)と評価された。前回と評価の変更はないが、特筆する種として、国指定の特別天然記念物であり、愛媛県の県獣であるカワウソが挙げられる。カワウソは、2012年8月環境省発表の第4次絶滅のおそれのある野生生物の種のリストで絶滅と判断された。県内ではかつては広く分布していたとされるが、1975年、宇和島市九島での記録を最後に確認されていない。しかし、現在も時々目撃などの報告があることや九島での記録からの経過年数などを鑑みて、絶滅ではなく絶滅危惧IA類(CR)と評価された。南予地域の海岸地帯などに少数が生存している可能性があるが、生息地の自然が開発などで失われている現状を考えると最も絶滅が危惧される種である。
 レッドリストに挙げてはいないが、人為的な影響を受けやすい種としては、カヤネズミが挙げられる。カヤネズミは平野部から山地にかけて、ススキなどイネ科草本の繁る環境に生息している。こうした環境は、放棄された耕作地や造成地に見られることが多く、開発などの人為的な影響や今後の植生の遷移によって生息地が消失するおそれがある。移入種として注目すべきはシベリアイタチ・ハクビシン・アライグマである。イタチ類は現在、愛媛県内にニホンイタチとシベリアイタチの近縁2種が生息している。ニホンイタチは自然分布していた種であるが、シベリアイタチは、1930年ごろに阪神地方に毛皮養殖のために持ち込まれたものが逃げ出し分布を広げたとされる。現在、東予・中予・南予地域の平野部ではシベリアイタチが定着し、徐々に山間部に分布を広げていると考えられ、今後の動向が注目される。ハクビシンはジャコウネコ科の哺乳類で東南アジアに広く分布する。日本における分布域が連続しないことや、江戸・明治期における確実な生息記録がないことから、移入種とされる。愛媛県では1950年代に久万高原町(旧面河村)で捕獲されたのが最初の記録である。現在は島嶼部を除くほぼ県内全域に分布している。アライグマについては2010年12月に新居浜市で捕獲されたものが県内初の捕獲記録である。原産地はカナダ南部からパナマ共和国で、ペットとして輸入されたものが、逃走したり、放棄されたりして日本各地で野生化している。47都道府県中最後に愛媛県で生息が確認され、県内ではまだ定着した確実な記録がないことから、目録に記載されなかったが、今後の動向に十分注意する必要がある。本県に特徴的に生息数が比較的少ない種としてアカギツネがある。アカギツネは、県内各地で確認されているが、もともと四国には少なかったとされる。ニホンノウサギ駆除の目的で、当時の県林政課が1970年代半ばに数年間続けて、県内各地でアカギツネを放獣した記録があるが、どの地域の個体がどこに持ち込まれたか明らかでない。ネズミ類など小型の哺乳類や鳥類を主に食べるが、果実を食べることもある。現在の陸上生態系の中では上位に位置する種であり、今後とも引き続き調査していく必要があると思われる。
 県内に生息する哺乳類には、減少が心配される種がいる一方、ニホンザル・ニホンジカ・イノシシなど農林業に対する被害が深刻化している種も存在する。ニホンジカとイノシシについては、特定鳥獣保護管理計画が策定され、それに基づいた科学的な管理が計画的に実施され始めてきた。ニホンザルについても管理計画の策定を急ぎ、よりよい共存の道が探られることに期待したい。

 哺乳類の現地調査ならびに情報の収集に際して次に掲げる方々や機関にご協力いただいた。この場を借りてお礼申し上げる(以下敬称略、五十音順)。
協力員
 今川 義康(特定非営利活動法人 西条自然学校)
 渡邊 和哉(ネイチャー企画)

協力者
 谷岡  仁(高知県香美市在住)
 前田 洋一(愛媛県立とべ動物園)
 谷地森秀二(認定特定非営利活動法人 四国自然史科学研究センター)
 矢野 真志(面河山岳博物館)

協力機関
 面河山岳博物館
 愛媛県総合科学博物館
 愛媛県立とべ動物園

執筆者:宮本大右