えひめのお魚事典

タチウオ

Trichiurus japonicus

タチウオ

タチウオ(太刀魚)は、スズキ目タチウオ科タチウオ属の海産魚で、学名は Trichiurus japonicus です。和名のタチウオは、太刀のような姿かたちと銀白色に輝く体色に由来するといわれており、英名も Cutlass fish, Scabbard fish など、海賊映画によく出てくる Cutlass(カットラス:舶刀)や Scabbard(スカァバァドゥ:鞘)といった刀にちなんだ名前が付けられています。これと同様に中国の「刀魚」や、韓国の「カルチ(カルは包丁や刀、チは魚の意味)」なども刀に関係したタチウオの呼び方です。また、これとは別に頭を上にして海中を泳ぐ姿が「立ち泳ぎ」のように見えることから名付けられたという説もあります。

タチウオは、世界の温帯から熱帯にかけての沿岸から大陸棚域に広く分布し、日本周辺では北海道以南の各地に生息しています。寿命は6~7年といわれ、成魚は全長1.5mに達します。1歳で約4割、2歳で約8割が成熟し、日本近海における産卵期は4~11月でその盛期は春と秋の2回です。稚魚期には動物プランクトンや甲殻類などを食べますが、成長とともに魚食性が強まりイワシやアジ・サバなどの小魚を大きな口と鋭い歯で捕食します。昼間は沖合の深みに身を潜めていますが、夜間には小魚を求めて表層まで浮上し、朝夕を中心に沖合だけでなく港の岸壁や堤防など岸の近くへも回遊します。

日本周辺に生息するタチウオ属の仲間にはタチウオのほかに、和歌山県以南の太平洋に分布するテンジクタチと奄美大島から沖縄に分布するオキナワオオタチがいますが、両種とも全長2m前後に成長する大型種です。

体表

体表に鱗はありませんが、体全体を覆うグアニンで体を保護しており、このグアニンによって体表は青みがかった銀白色に輝いています。

鰭(ひれ)

背鰭は1基で体に沿って長く、125~145軟条です。腎鰭は痕跡的で皮下に埋没していて見えません。腹鰭と尾鰭はなく、尾部は紐状に長く伸びます。タチウオの背鰭は薄い灰色ですが、近縁種のテンジクタチの背鰭は黄色みがかっています。

写真1:テンジクタチ

出典:うなぎα WEB魚図鑑

口部

口は大きく、下顎は上顎より前に突き出しています。上顎先端には2対、下顎先端には1対の側偏した強大な牙状歯があり、その先端の内側は鉤状になっています。

写真2:タチウオの口

タチウオと人の歴史

タチウオは、その名前の由来「太刀」のとおり、武士の活躍が歴史上目立ち始めた平安時代後期から、武士にまつわる逸話に登場しています。源平合戦で自死した平知盛や、鎌倉幕府を倒した新田義貞にかかる故事が知られており、日本人は、これより古い時代からタチウオを食べていたと考えられます。また、天明2年(1782年)に出された豆腐料理を集めた料理本には「たち魚の雪花菜(「きらず」と読む:おから)焼き」という料理が紹介されており、江戸時代にはタチウオは庶民の間で広く食べられていたことがわかります。

現在、タチウオは重要な漁業資源であり、釣り、底びき網、定置網などで漁獲され、刺身や塩焼き、蒲焼のほかカルパッチョなどで食べられますが、愛媛県の南予地方では三枚に下したタチウオを竹に巻きつけて甘辛いタレで焼いた「太刀魚巻」が、じゃこ天などと並ぶ郷土料理として愛されています。

一方、タチウオは食べ物としてだけでなく、体表を覆う銀白色のグアニン(生物のDNA及びRNAの二重鎖構造を構成する核酸塩基の1つ)は「魚鱗箔」と呼ばれ、明治末期から昭和にかけて模造真珠などの原料として利用されてきました。その製品は第二次世界大戦後の日本の輸出工芸品として重要な役割を果たしましたが、その後さまざまな化学樹脂や塗料を原料とする模造真珠が製造されるようになったため、現在は生産されていません。

危険な魚

タチウオは釣り人にとっては、船釣り、陸釣り、餌釣り、ルアー釣りで楽しめ、食べておいしい人気のある魚です。しかし、釣ったタチウオを掴むときには、鋭く大きな歯でケガをしないように魚バサミを使うなど注意が必要です。危険な歯を持つ魚は、タチウオ以外にもウツボ、ヒラメ、カマス、ムツのほかフグ類など多くいます。また、スズキも鰓蓋が鋭利な刃物のようになっているので、素手で触るのは危険です。

歯や鰓蓋以外でも、オニオコゼ、オニダルマオコゼ、オニカサゴやミノカサゴなどの背鰭や腹鰭などにある棘はさらに危険で、刺されると毒が注入され激痛が走ります。刺されたときには、すぐに傷口から毒を絞り出しよく洗浄することが必要ですが、場合によっては発熱、全身性の麻痺や呼吸困難などが生じ死に至ることもありますので、様子がおかしいときは迷わず病院へ行くことが必要です。棘に注意が必要な魚は、これらオコゼ類、カサゴ類以外にもゴンズイやアイゴ、アカエイなど多くいます。

さらに、フグ類などは猛毒のテトロドトキシンを体内に持っていますし、サメも種類によって人を襲うこともあるほか、ダツの仲間のオキザヨリは突進してダイバーに突き刺さることもあります。このように海の中には危険な魚がたくさんいますので、十分気を付けて釣りやダイビングを楽しんでください。

写真3:オニダルマオコゼ

出典:忠 WEB魚図鑑