えひめのお魚事典
クロマグロ
Thunnus orientalis
日本周辺のクロマグロ(黒鮪)は、スズキ目サバ科マグロ属の海産魚で、学名は Thunnus orientalis です。従来は大西洋のタイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)と同じ種とされていましたが、分子遺伝学的解析により、これらは別々の種であることが判明しています。英名は Pacific bluefin tuna で、太平洋に生息する青い鰭のマグロと表現されています。マグロという名前は、背が黒いことや眼が黒いことが由来であるという説があり、マグロのなかでも特に黒いことからクロマグロと呼ばれるようになったようです。日本では最も高級なマグロで、マグロのなかのマグロとして、ホンマグロとも呼ばれています。マグロ属にはクロマグロ2種のほか、キハダ・タイセイヨウマグロ・コシナガ・メバチ・ビンナガ・ミナミマグロがいて全部で8種となります。(なお、タイセイヨウクロマグロとタイセイヨウマグロは別々の種類です。)
クロマグロは、北太平洋では熱帯のパラオ諸島から台湾・日本周辺のほか北米西岸に分布し、南太平洋のニュージーランド周辺などにもわずかに生息します。また産卵場は、北太平洋西部の台湾~南西諸島近海と日本海南西部です。
マグロ類のなかでもクロマグロは大型種で、全長3m以上、体重400~500kgに達します。また、他のマグロ類と同様に、体形は紡錘形で血合筋が発達し、心臓も大きいなど、高速で泳ぎ続けることに適応しているほか、体温を水温より10℃以上高く維持する能力を持っているので、水温の低い海域まで回遊することが可能です。
部位別の身
赤身は体の中心部、大トロは腹側、中トロは腹側と背側です。これら以外にも、頭部からカマ、カマトロ、ほほ肉、脳天が、尾部からテールがとれ、体のほとんどが食用に利用されます。
図1:マグロの部位
体表
体形は典型的な紡錘形で太く、体表は小鱗で被われています。体色は背側が黒色で腹側は銀白色です。幼魚では、背中から腹にかけて白い縞模様があることから、「ヨコワ」などと呼ばれています。
写真1:ヨコワ(クロマグロの幼魚)
鰭(ひれ)
背鰭は2基で第一背鰭が13~15棘、第二背鰭が13~15軟条で、第二背鰭の後方に8~9本の小離鰭があります。また、臀鰭は13~15軟条で、その後方に7~8本の小離鰭があります。胸鰭は短く、その先端は第二背鰭基部に達しません。一方、日本近海の他のマグロ類(ビンナガなど)は、いずれも胸鰭が第二背鰭基部より後方に伸びます。
写真2:ビンナガ
マグロと人の歴史
岩手県の太陽台貝塚や青森県の三内丸山遺跡などからマグロの骨が出土しており、日本人は縄文時代からマグロを食べていたことがわかります。また、同時に釣針や銛も出土していることから、当時からこれらを用いて回遊魚であるマグロを漁獲していたとみられます。マグロが「マグロ」と呼ばれるようになったのは江戸時代中期以降で、それ以前の奈良時代から江戸時代初期までは「シビ」と呼ばれていました。そのため、今でも多くの地域で「シビ」「シビマグロ」という呼び方が残っています。
現在ではマグロ類、特にクロマグロは最高級魚として、刺身や寿司ネタになっていますが、室町時代や江戸時代の書物には、「シビ」はまずい下魚として紹介されています。また、マグロが広く一般に食べられるようになったのは、江戸時代末期に醤油漬けのマグロ「ヅケ」を寿司ネタに使ったのがきっかけと言われていますが、生の赤身が寿司ネタとして使われるようになったのは昭和になってからです。しかし、その頃でも芸術家・美食家で有名な北大路魯山人が下手物扱いするほどで、さらに、鮮度低下の速いトロの評価は低く、猫も食べない「猫またぎ」と呼ばれていたようです。
しかし、戦後になると冷蔵・冷凍技術の発達により鮮度保持が容易になったことで、新鮮な刺身や寿司を食べることができるようになり、マグロの評価は高くなっていきました。さらに、欧米の影響による食文化の変化に伴って、脂肪の多い食事が好まれるようになったことや、1尾のマグロからとれる量が赤身より少ないことなどから、トロが赤身以上に好まれるようになりました。
クロマグロ養殖
日本でのクロマグロ養殖に関する研究は、昭和44年の長崎県水産試験場によるクロマグロ幼魚の飼育が最初で、翌45年からは水産庁事業により、同水産試験場や近畿大学など7つの機関が参画して技術開発が開始されました。産業的なクロマグロ養殖は、昭和60年に高知県内で開始されたあと、徐々に愛媛・和歌山・長崎・鹿児島など各県で新規参入が進み、平成29年には全国の経営体数は95で、出荷量は24万7千尾、15,858トン(1尾当たりの平均重量:64.2kg)に達しています。
クロマグロ養殖は、稚魚から2~3年程度で30~50kg以上になる成長の早さのほか、安定した身質や計画的な生産・出荷が可能などの利点がありますが、他魚類に比べ養殖生簀などより大規模な施設整備が必要になります。さらに、種苗を天然の幼魚(ヨコワ)に依存していることが問題となっており、天然資源への懸念から、平成27年からは30kg未満の小型魚の漁獲規制が実施されています。一方で、人工種苗の生産については、平成14年に近畿大学が世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功し大きなニュースになりました。その後、民間企業等でも人工種苗の生産が可能になり、生簀に活け込む人工種苗の割合は、平成24年以降43.2~58.2%で推移しています。さらに、出荷尾数に占める人工魚の割合も、平成24年の4.0%から平成29年には8.9%に上昇するなど、天然の幼魚に依存しない養殖形態に移行しつつあるといえます。
