えひめのお魚事典

ケンサキイカ

Uroteuthis edulis

ケンサキイカ

ケンサキイカ(剣先烏賊)は、ツツイカ目ヤリイカ科ケンサキイカ属のイカで、学名は Uroteuthis edulis です。英名は Swordtip squid で、Swordtip は剣の先端、squid はイカという意味なので和名をそのまま英訳した呼び方です。ケンサキイカという和名は、姿かたちが尖った剣の先のように見えることから付けられたといわれています。

ケンサキイカは、スルメイカやヤリイカより暖海性で太平洋側が関東以南、日本海側が青森県以南の日本各地から、東シナ海、南シナ海、東南アジア、オーストラリア北部にまで分布しています。通常は沖合の水深70~100mに生息しますが、産卵期の4~10月には、水深20~90mの潮通しのよい砂底域に回遊し、雌は長さ10~20cmの寒天状の卵嚢を約50個砂地に産み付けます。この卵嚢1個の中には200~400個の卵が入っていますので、1個体あたりの産卵数は1万個以上に達します。長径約2mmの楕円形の卵は20~30日で孵化し、外套長(胴の長さ)約4mmで成体とほぼ同じ姿の稚イカが生まれます。動物プランクトンや甲殻類、イカ・タコ類、小型の魚類を食べて成長します。雄の方が雌より大型になり、雌の外套長は最大で41cmになるのに対して雄は50cmに達します。寿命は他のイカ類と同じく1年で、産卵後に死亡します。

日本周辺に生息するケンサキイカには、体のサイズや形態、分布域によって、大型で日本海西部に現れる「ブドウイカ型」、ブドウイカ型より細長い体形で九州西部に多い「ゴトウイカ型」、一番小型で青森県以南の日本各地に分布する「メヒカリイカ型」の3つの型が知られています。

外套膜(がいとうまく)

外套膜(胴)は細長い円錐形で、生きているときは透明感のある乳白色です。鰭(耳、エンペラ)は菱形で外套膜の50~70%の長さに及びます。外套膜の中には鰓、胃、腸、肝臓、生殖腺、墨汁嚢などの内臓があります。

頭部

頭部には脳、眼、口、漏斗、腕(足)があり、このうち漏斗は排泄物や墨を排出するほか、高速で泳ぐための推進力を得るため海水を勢いよく吐き出します。

写真1:ケンサキイカの漏斗

腕

8本の腕と2本の長い触腕が頭部から直接伸び、触腕は餌を獲るときに使います。雄の左第四腕は先端に吸盤がなく肉質の櫛歯状の交接腕になっていて、これを使って精子の入った精莢(せいきょう)を雌に渡します。

写真2:ケンサキイカの交接腕

イカと人の歴史

総務省統計局によると、年間(2018~2020年の平均)の世帯当たり(二人以上の世帯)のイカ消費量は1,159gで、サケ、マグロ、ブリ、エビに次いで5番目に多く、日本人がイカ好きであることがよくわかります。日本人のイカを食べる習慣は、縄文時代からみられ、2021年7月に世界文化遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」の三内丸山遺跡からはマグロやタイの骨とともに、イカの口器が出土していて、当時からイカを獲って食べていたと考えられています。

また、奈良時代の「出雲国風土記」(733年)には、鮐ふぐや沙魚はぜとともに「烏賊」の記載があるほか、平安時代の「延喜式」(927年)にも鰒あわびや鮭と並んで乾物のスルメとみられる「烏賊」も諸国貢献物として記録されています。さらに、江戸時代初期の料理本「料理物語」(1643年)では、烏賊の料理として「うのはな、なます、さしみ、かまぼこ、に物、青あへ」など多くの食べ方が紹介されています。

現在、日本周辺ではケンサキイカのほか、ヤリイカ、スルメイカ、アオリイカ、コウイカなど多くの種類のイカが、底曳網、定置網、刺網、釣りのほか篭などで漁獲されています。これらは刺身、寿司、煮物、天ぷら、フライのほか、イタリアンやフレンチ、中華など様々な料理の人気食材となっています。また、イカは加工品で食べられるものが約50%と魚介類の中では高く、伝統的な加工品としてスルメ、塩辛、比較的新しい加工品としてはさきいか、いかくん、いか天などがあります。

イカの貝殻

イカの貝殻というと不思議に思うかもしれませんが、イカは分類上アサリやハマグリ、サザエなどの貝類と同じ軟体動物に属していて、ちゃんと貝殻を持っています。貝は硬い貝殻の中に内臓や足、外套膜が納まっていますが、イカの貝殻は貝のように体の外側ではなく、外套膜の筋肉中にあります。コウイカ類では外套膜の中に「甲」があり、これが貝類と同じように外套膜から分泌された炭酸カルシウムでできた貝殻です。ケンサキイカやヤリイカなどのツツイカ目では、貝殻はさらに退化して石灰質を失って、殻皮質(コンキオリン)だけのプラスチックのような「軟甲」になっています。

もともと貝殻は、海底で生活する貝が外敵から身を守るためのもので、イカの先祖であるアンモナイトも硬い貝殻で身を守りながらゆっくりと海中を泳いでいました。しかし、イカは貝殻で身を守るのではなく、筋肉を発達させて貝殻を外套膜の中に包み込み、すばやく泳ぐことで、餌を捕まえたり外敵から逃れたりすることができるように進化してきたのです。また、イカの眼は脊椎動物に近い発達したレンズ眼の構造をしていて、無脊椎動物の中では最も視力が良いといわれています。さらに、活発に運動するイカは多くの酸素が必要なため、本来の心臓のほかに2つ鰓の根本にそれぞれ鰓心臓があり、鰓に多くの血液を送ることができます。このように貝殻を外套膜の中に包み、併せて筋肉や眼、心臓などの機能を発達させてきたことが、現在のイカの繁栄に繋がっているといえます。

写真3:ケンサキイカの軟甲