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地域協働ネットワークオンラインセミナー 山中亮氏の講演内容について(令和5年度)
講師
愛媛大学社会共創学部 地域資源マネジメント学科
准教授・博士(教育) 山中 亮 氏
プロフィール
愛媛県大洲市出身。1992年より愛媛県小学校・中学校教諭、2004年よりサンフレッチェ広島、2006年より愛媛FCのプロサッカーコーチ、2013年に愛媛大学特任助教を経て、2016年より現職。スポーツの持つ可能性に着目し、人材育成・地域の活性化・グローバル化につなげていく研究や活動を行っている。専門領域は、スポーツ社会学、スポーツデータ分析、リーダーシップ論、コーチング論。
[著書]Coach Education in Football, Contemporary Issues and Global Perspectives(共著)出版者・国Routledge・London
講演テーマ
スポーツの現場から見えるチームや組織のダイナミズム
〜チームの連携や躍動をマネジメントするために〜
講演内容
スポーツの現場における刺激と反応がチームに及ぼす影響
スポーツの現場でチームをマネジメントしていくにあたり、刺激と反応というキーワードはとても重要な要素となります。例えば監督解任という刺激が選手のヒエラルキーに変化を起こしたり、契約やチーム編成のところまで話が及んだり。刺激と反応が拡がっていくことで、組織にさまざまな化学変化を起こします。この刺激と反応によって生じる変化を捉えることは重要で、競争などの流動性をいかに組織の中で作っていくかなど、それらをうまくマネジメントできる組織というのは、躍動感を持って進みたい方向に向かっていけるのではないかと考えています。刺激と反応という考え方は、行動心理学のS-R理論がベースになっており、刺激と反応をもとに、学習や行動を説明しようとするアプローチです。このことを頭に置いて組織に起こる現象を観てみることが非常に重要になってきます。
サッカーに魅力や躍動感をもたらすFIFAの戦略
国際サッカー連盟(以下、FIFA)は、サッカーをより人々が熱狂する魅力的なスポーツにしていく目的のもと、様々な施策を取り入れた刺激と反応のマネジメントを行っています。例えば、オフサイドルールを検討することで得点の増加を促したり、ゴールキーパーが足を使ってボールをプレーすることを奨励したバックパスルールによって、スピーディーな試合展開を促すなど、FIFAはサッカーをより魅力的にするための戦略を重ねてきました。2022年に開催されたFIFAワールドカップカタール大会では、テクノロジーを利用したジャッジにも注目が集まりました。日本がスペインとドイツに劇的な勝利を収め、予選突破を果たしましたが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(以下、VAR)を採用したことにより、「三苫の1ミリ」が生まれたのです。
「三苫の1ミリ」にみるスポーツのDX
さらに大会では、半自動オフサイドテクノロジーも大きな刺激となりました。その反応についてオフサイドの数を調べてみました。予選突破チーム群と予選敗退チーム群のオフサイドの数を比べてみると、予選突破チーム群のオフサイドの数が少なく、1試合目から2試合目にかけて試合中のオフサイドの数が現象していることが分かりました。判定をDX化するという刺激によって、各チームは反応として判定のDX化を攻略し、オフサイドにならないよう攻撃パフォーマンスの質を向上させました。つまり、FIFAはより躍動感を持ったダイナミックな質の高い攻撃を、判定のDX化という刺激を与えることでマネジメントしていったということです。
刺激→反応に注目して戦略的・論理的に分析
組織をより良くしていく活動の中で、PDCAサイクルを取り入れた取り組みが一般的に行われますが、サイクルに取り組むと同時に、実際の現場での刺激や反応はどうだったのかを捉えることも重要です。その刺激と反応を抽出し、戦略的かつ論理的に分析し反応に対する改善として、組織のアクションをどのようにマネジメントしていくかが重要になってきます。
FIFAの事例から見える組織マネジメントの根幹の1つとしては、組織が大きくなればなるほど、エビデンスベース(納得する客観的な根拠材料)を基盤とすることが重要になってきます。FIFAは、「三笘の1ミリ」のあと、迅速に公式SNSに客観的に現象が捉えられる映像を用い、エビデンスとして示しました。提示するエビデンスについても、数字のみのような客観的エビデンスのみではなく、人々が腹落ちするような理に適うエビデンスを見つけて提示していくことが重要です。
目先の便利さではなくDX戦略は目的を明確に
DX戦略などを組織に取り入れる場合には、作業現場の利便性や効率性という目先の便利さだけでなく、何のために取り入れるのかといった戦略を忘れないようにしながら、目的を達成する重要な取り組みにしていくことが大切です。また、DX化には高い専門性も不可欠になってきますので、無理に自分たちで全てを行おうとするのではなく、専門家を活用するアウトソーシングの考え方も、組織が成長する上で重要なポイントです。
チームの連携や躍動をマネジメントするために重要なことは、まずは何がやりたいか、またやるのかといった戦略の明確化や自覚化が重要です。常にその戦略に立ち返りながら目的や目標を定め、刺激を繰り出し、刺激に対する反応がどのように返ってくるか、それをしっかりと観察し、さらなる刺激を繰り出していくマネジメントを考え実行していくことが大切です。今回の話はスポーツの現場の内容ではありましたが、皆様の日常の中に役立てていただけることがありましたら、非常にありがたく思っています。
【質疑応答】
- 自身が所属するチームや組織だけでなく、外部の関係先との連携が必要とされる際に、円滑に業務を進めるためにはどのような心がけや取り組みが必要だと考えますか。
A/やはり自分たちが連携先の方たちとどのようになりたいかという考えの共有がまず重要だと思います。また、私たちがその関係先の方たちと活動する場合、どのような影響を与える可能性があるのか、さらに相手側の組織の方たちがどのように変化をする可能性があるのか。そういったことをまずは思い描いてみることが重要です。そして実際に活動したら、取り組みに対する刺激と反応をしっかり観察して逃さず、その反応をさらにより良いものにしていくマネジメントを行う。その繰り返しが関係先とのよりよい連携に繋がっていくのではないかと思います。
- コロナ禍を経て、リーダーシップ論やコーチング論に変化はあったのでしょうか。また、コロナ禍も踏まえ、今後、組織やチームを率いる立場の人がその組織を活性化するために最も重要かつ根幹となるポイントを教えてください。
A/リーダーシップ論、コーチング論というのは、社会のニーズに依存するところがあるので、やはりコロナ禍で社会が変容したことを考えると、理想として求められるリーダーシップ論とかコーチング論っていうのは多少変化してきている点もあると思います。しかし社会が変容してきている中でも、組織やチームを支える立場の人たちが大切にしなければいけないのは、現場で起こっている現象に対して何を気づけるかということです。リーダーが組織の構成員である人たちをしっかり観察し、今の状況から得る刺激に対してどのような反応をしているか、さらにどのように変化しているか。それを捉え組織を支えていくマネジメントを繰り出していくことが重要だと思います。