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令和6年度の成果
【令和6年度成果】 研究分野 A:森林管理・経営、B:木質資源加工利用 | ||||||
予算事項名/試験研究課題名 | 実施年度 | 研究分野 | 目 的・概 要 | 主 な 成 果 | 資 料 | |
林業試験研究費 | 種子の検定と発芽試験 | S35~ | A | 優良な種苗の供給を確保するため、スギ、ヒノキ、アカマツの発芽試験等を行う。 | 発芽率はそれぞれ次のとおりであった。 ○特定母樹ミニチュア採種園 東 温 R05ス ギ 30% 川 内 R05ス ギ 45% 内 子 R06ヒノキ 14%(サンサンネットあり) 川 内 R06ス ギ 27% ○エリートツリーミニチュア採種園 内 子 R05ヒノキ 64%(サンサンネットあり) 川 内 R06ヒノキ 42%(サンサンネットあり) ○普通採種園 新居浜 R05ヒノキ 6% 新居浜 R05ス ギ 34% 新居浜 R04クロマツ 64% 内 子 R04アカマツ 66% |
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スギエリートツリー特性調査試験 | R4~R6 | A | スギエリートツリー種苗の普及を推進するため、材質強度の優位性について、幹の応力波伝播速度により検討する。加えて、DNA分析による材質強度の優れた母樹の特定を行い、既存精英樹やエリートツリー系統間の差を明らかにする。 | スギ大苗を植栽後10年経過した久谷試験地において、従来種苗区75個体、エリートツリー種苗区84個体の計159個体の応力波伝播速度を計測した。その結果、エリートツリー種苗区での応力波伝播速度の方が有意に高くなり、材質強度の優位性を確認できた。DNA分析により遺伝子型ライブラリーを作成し、親子鑑定を行ったところ、特定の種子親が検出された。その種子親由来の個体は、材質強度が高いことが推定された。 | ||
県産内装材利用技術開発事業 | 県産内装材利用技術開発事業 | R6~R8 | B | 大径材の用途を確立し、原木価格の向上を図るため、県産木材の香りの特性を調査するとともに、人への影響を生理面・心理面・作業効率の観点から評価し、外材由来の製品等との差別化を図る。 | 県産材の香りの成分を明らかにするため、揮発性成分と抽出成分の成分分析を行った。乾燥方法による香りの違いや経時変化を測定するため、定期的に抽出成分の分析を行い、データの蓄積を図った。また、人への影響調査を実施するため、実大空間の内装に県産材を施工し、生理面等に及ぼす影響を調査した。 | |
林業普及指導事業費(林業躍進プロジェクト推進事業費) | ドローンを使用した森林施業地の写真測量手法の調査 | R3〜R7 | A | 森林施業地の現地測量に係る労務負担を軽減するため、写真測量に関する情報を収集し、現地実証、精度検証を行ったうえで、県内林業関係者(森林組合、林業事業体等)に技術の普及を行う。 | ドローンを使用した写真測量の精度を確認するため、林業研究センターの裏山に四角形の調査区を設置し、ドローンを3通りの飛行方向(長辺方向、短辺方向、長辺+短辺方向)に自律飛行させて写真を撮影した。写真はカメラレンズの歪補正の有無も加えて解析し、計42枚のオルソ画像を作成した。オルソ画像から調査区の面積及び重心位置を求め、RTK方式のGNSS受信機による測量と比較したところ、面積は96%から106%、重心位置のずれは0.9mから25.8mの範囲に含まれていた。重心位置のずれは長辺方向と短辺方向の写真を統合して解析することで低下する傾向がみられた。 | |
森林計画樹立費 | 森林資源モニタリング調査 | R2~R6 | A | スギ・ヒノキ現実林分収穫表の調整のためスギ・ヒノキ人工林において現地調査を実施する。 | スギ・ヒノキ現実林分収穫表の調整及び平成30年に測定された航空レーザ計測成果の精度確認のため、宇和島市、鬼北町、松野町、愛南町の25林分において現地調査を実施した。今後、調査結果を解析し、県内のスギ・ヒノキ人工林の森林資源量を推定する予定である。 | |
新たな森林管理システム推進事業費 | 携帯型森林GISの構築及び活用に関する調査 | R2~R6 | A | 近年、航空レーザ計測データの解析により、精密な森林情報の整備が進められている。これらの情報を携帯機器と組み合わせて携帯型森林GISを構築し、森林・林業関係者による活用を図ることにより、新たな森林管理システムの推進に資する。 | 県が構築した携帯型森林GIS(森林現地調査支援システム)の普及を促進するため、導入方法や使用方法等の作業手順を取りまとめた手引書を作成した。また、この手引書を使用して、愛媛県林業事業体会議及び森林組合の研修会において講義・実習を行った。 | |
エリートツリー活用省力化モデル事業費 | 県オリジナルスギエリートツリー新品種開発研究 | R5~R7 | A | エリートツリーの効率的な種子生産や種苗の安定供給・苗木価格の低減を進めるため、従来種苗の実生から成長や木材強度などが、エリートツリーと同等以上の性能を有する個体を選抜し新たな県オリジナルの「スギ」エリートツリー新品種の開発を行う。 | 愛媛県育種混合種苗の中からエリートツリー並みの優良個体を選抜するため、植栽後9年を経過した林分にて、形質として樹高、胸高直径、雄花の着生量を、木材強度試験として応力波伝播速度の測定を行った。エリートツリーの樹高や強度に並ぶ個体が確認できた。また、それらのうち、雄花着花が少ない個体について、穂木を採取し、挿し木を行った。 | |
県産大径材利用拡大事業費 | 県産材によるツーバイフォー(2×4)工法部材開発研究 | R3~R8 | B | 大径化が進む県内森林資源を活用して、2×8や2×10等の大断面ツーバイフォー部材の製造技術を開発し、外材が占めている同部材での県産材によるシェアの獲得を目指す。 また、県内JAS認証工場と連携した商品化を目指し、新たな需要を開拓する。 |
ヒノキの210材の経年による変形を調査したところ、反りが大きい材は反りが改善し、ねじれは減少、曲がりはほぼ変化が無かった。幅ぞりは2月製造後から7月に向けて増加傾向であったが、等級が下がるほどの変化ではなく、その後止まった。これらの結果から、製造後の経年変化は問題ないことが確認できた。さらに、縦枠スギ×横枠SPFの壁パネルの性能を試験したところ、全てSPFの物と同等の性能があった。 | |
CLT建築物建設促進事業費 | CLT普及促進情報整備事業(CLT建築物環境評価検証事業) | R3~R6 | B | 県内のCLT建築物における室内環境の情報を収集し、CLT利用の優位性を実証することに加え、CLT使用空間における人の生理・心理評価を行い、この結果を販売促進活動に活用することで、CLT建築物の建設促進を図る。 | 今年度CLT建築物に建替えた県内の事務所において、滞在する職員の気分状態の評価、脈波・唾液アミラーゼによる緊張・リラックス状態の評価及び室内の空気質・温湿度測定を行った。空気質測定結果は、建設直後の事務所では揮発性有機化合物が2,150μg/m3確認され、α-ピネンやD-リモネンなど木材由来の成分が大半を占める結果となった。人の生理評価では、CLT建築物における優位な結果は得られなかったが、心理評価では好意的な印象を抱く傾向が見られた。 | |
広域連携型農林水産研究開発事業費 | 無花粉スギの開発・生産・増殖効率改善試験 | R3~R6 | A | 無花粉スギ品種からの種子生産量の増大・安定供給をはかるため、種子親となる無花粉スギや花粉親となる無花粉遺伝子を有するスギ精英樹等の着花・開花特性、種子生産性に関する特性を把握し、種子形成時期の気象との関係を明らかにする。また、無花粉遺伝子を有するスギ精英樹と特定母樹等を用いた人工交配を行う。 | 令和6年7月に無花粉遺伝子を持つ愛媛県精英樹及び通常の精英樹6系統、無花粉スギ2系統にジベレリン散布・浸漬処理を行った。 着花・開花特性:11月下旬に雄花の着花指数を調査した。着花指数は、上浮穴16号が他の系統と比べて非常に高い指数を示し、花粉親として非常に有用であった。令和7年2~4月にかけて、雌花・雄花の開花フェノロジーの調査を行った。昨年度に引き続き、系統によって開花時期がずれ、雄花よりも雌花のほうが早く開花する系統があることが確認された。 種子生産に関する特性:令和6年11月に球果から種子を採取し、充実率、100粒重、発芽率の調査を行った。結果は育種センターに送付し、他のデータとともに解析される予定である。 人工交配:令和7年2月に無花粉遺伝子を有するスギ精英樹3系統から花粉を採取し、人工交配を行った。人工交配は、無花粉スギ1系統、無花粉遺伝子を有するスギ県精英樹1系統、エリートツリー1系統に対して行った。また、環境データを測定した。令和5年度に人工交配で得られた種子を播種し、発芽苗木119本のジェノタイピングを行い、無花粉スギを選別した。 |
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スギ雄花着花特性検査技術高度化試験 | H29~R6 | A | 幼木へのジベレリン処理による雄花着花量から、成木の自然状態での雄花着花量を推定できる手法を確立し、これにより現在20年以上を要している少花粉スギの育種期間を大幅に短縮する技術を開発する。 また、既存のヒノキミニチュア採種園の環境と種子生産量の関係を調査し、管理マニュアルを作成する。 |
ヒノキミニチュア採種園にジベレリンペーストを埋設し、その作業時間の解析を行った。処理に係る1箇所当たりの時間は59秒、母樹1本あたりでは15分47秒となった。球果をつけた1,491枝に防虫ネット(0.8mm目合い透明、赤色サンサンネット、各色1年間使用済み、2年間使用済み)を設置し、カメムシの被害防除を行った。また、ネット設置により葉焼けが発生することから、8月の酷暑時にネットの表面温度を計測した。ネットの色による表面温度に違いはなかった。また、ネット施工に係る歩掛調査を行った。1箇所当たりでは97.8秒、母樹1本あたりでは19分55秒であった。令和6年度はカメムシの発生数が非常に多く、昨年度では複数年使用した中古ネットでもカメムシの侵入を防ぐことが可能であったが、今年は、中古ネットではネット内への侵入が複数みられた。温暖化に対応した、球果の充実時期を検討するため、8月21日から2週間おきに球果を採取し、発芽率を調査するため林木育種センターに送付した。 | ||
旧八幡浜市立図書館の移築における壁の性能検証 (大学委託共同研究) |
R6 | B | 旧八幡浜市立図書館は、大洲市出身の建築家である松村氏が手がけた歴史的建築物である。この図書館の保存に向けて、県内の建築設計事務所や香川大学が構造設計の技術的指導をしている。 そのため、図書館の建替えに使用する耐震壁の強度性能評価を行い、建築物の維持保存に資する。 |
旧八幡浜市立図書館の移築に使用する壁の載荷試験を行った。外壁2体、内壁4体の計6体で、建設当時の仕様と外観はそのままで耐震補強を施した仕様でそれぞれ面内せん断試験を行った。その結果、外壁は補強なしの軸組み試験体で壁倍率が0.14であったのに対し、耐震補強を施した筋交い試験体では4.25と約30倍の強度が得られた。また、内壁は補強なしの方杖試験体で壁倍率0.50であったのに対し、耐震補強を施した方杖試験体は0.65であった。この結果により、補強を施した壁が長期の使用に耐えうる強度を有することが確認できた。 | ||
ヒノキのせん断強度の再検証 | R6~R7 | B | 木材のせん断強度が無欠点小試験体のデータに基づくものである点を改善するため、試験評価法の妥当性の検討、全国各地の材料試験データの解析、国産材の実大試験データに基づく強度特性の取得により、せん断強度を再設定し、木材の利用推進に資する。 | 県内製材工場でヒノキ平角(幅105mm×厚さ240mm×長さ4m)を35本調達し、強度試験に先立ち、振動法による非破壊試験を実施した。その結果、縦振動法によるヤング係数と曲げヤング係数には正の相関関係が認められた。 強度試験では、JISいす型せん断試験、実大いす型せん断試験、逆対称4点曲げせん断試験の3種類を実施した。 JISいす型せん断試験結果について、せん断強度の平均値は(変動係数)は11.0N/mm2(20.1%)であり、正規分布仮定に基づく信頼水準75%の5%下限値は6.75N/mm2であった。 実大いす型せん断試験結果について、全試験体のせん断強さの平均値(変動係数)は7.74N/mm2(24.1%)であり、正規分布仮定による信頼水準75%の5%下限値は4.25N/mm2であった。 逆対称4点曲げせん断試験結果について、破壊形態に関わらず算出したせん断強さの平均値(変動係数)は8.13N/mm2(10.4%)で、正規分布仮定による信頼水準75%の5%下限値は6.54N/mm2であった。 |
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高耐力国産材JIS仕様トラスの開発 | R6 | B | 一般住宅以外での木材利用を拡大するため、非住宅建築物の木造化を促進する必要があり、今後、より大きな空間を構成できるトラスが必要になってくる。これまで国産スギ等を使用した20mを超えるスパンのトラス開発を進めてきたところであるが、屋根設備のある建築や積雪が多い地域での利用拡大を図るため、高い耐力と剛性を有する接合部仕様を使用したトラスの開発を行う。 | JIS A 3301の標準トラスと同じ部材断面トラスに、これまで開発してきたトラス用の全ねじ長びす斜め打ち併用引きボルト継手を、さらに合掌尻仕口にも同長びす斜め打ち補強を採用し、破壊試験を実施した。 試験の結果、標準トラスの試験結果よりも剛性、破壊強さが大幅にあがり、スパン12m、2mピッチ配置で、多雪の積雪条件区域において使用できる十分な性能を得られた。 |