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更新日:2021年1月12日
カンキツ類の重要病害の一つである温州萎縮病(病原:温州萎縮ウイルス)の検定は酵素標識抗体法(ELISA)により行っているが、近年の検定試料の中に明確に陽性とは判定しかねるもの(疑陽性)が多く認められる。これはカンキツ樹体内でのウイルス濃度が低いことに起因すること等が考えられるため、ELISA検定を補完する目的で高感度検出法である逆転写-PCRによる検定法を検討した。その結果、本法はELISA法と比較して100倍以上の高い検出感度が得られ、実用性の高い検出法であることが明らかとなった。
カンキツ新品種‘せとか’における萎縮症状
春梢で葉の奇形および小葉がみられる。
検定法による診断結果の比較
病徴観察およびELISAでは判断が難しかった軽微な症状からも逆転写PCRでは診断が可能である。
逆転写-PCRに用いる遺伝子増幅装置
本機を用いてウイルス遺伝子のみを増幅させる。
温州萎縮ウイルス保毒状況の判定
温州萎縮ウイルスを保毒していれば矢印(←)の位置に明瞭なバンドが形成される。
(果樹試験場・主任研究員・清水伸一)
近年果物の消費は少量多品目化の傾向にある。特に本県主力品種である伊予柑は需要が低迷していることから、これに代わる新品種の育成が強く求められている。
このため、果樹試験場では、本県の気候風土に適した優良な形質を持つカンキツ新品種の育成を目的に交配を続けており、今回年内に収穫できる有望系統として「愛媛果試第28号」を育成したのでその概要を報告する。
(1)育成経過
平成2年に「南香」を種子親に用い、「天草」の花粉を交配した交雑実生を育成した。ガラス室内で育苗を行い、平成5年に開花結実促進のため温州ミカン中間台に高接ぎを行い、発生した枝梢をわき芽を除去しながら徒長させて、平成6年に育成棚に誘引した。
平成7年に初めて開花結実し、外観が良く、果実品質も優れていたため、仮選抜を行ない、2代目を温州ミカン中間台に高接ぎを行った。平成9年に2代目が初めて結実し、有望な系統であることを確認したので、愛媛28号として一次選抜を行い、同年に南予・岩城の両分場に穂木を配布して適応性試験を開始した。
平成12年から県内各産地においても現地適応性試験を開始し、平成14年に早熟で高品質なカンキツであることを確認したので、平成15年3月に種苗法に基づく品種登録申請を行った。
図1 愛媛果試第28号の系統図
(2)木の特性
樹勢はやや強く、樹姿は当初徒長枝の発生が多いが、徐々に開張してくる。若いうちとげの発生があるが、結実し始めると徐々に消失する。
枝梢は太く、長く、密度は中程度である。節間は短い。葉は「天草」より小さく、紡錘形であり、くさび形をした翼葉がある。花は単生で、花粉の量は中程度である。
(3)果実の特性
果実の大きさは250g程度(ネーブルオレンジ程度)である。赤道部から果梗部にかけて尖ったような独特な果形をしている。果皮は滑らかで、温州ミカンより赤味が強いが、完全着色以降に樹冠外周部の直射日光の当たる果実は、陽光面に退色が見られる。
浮き皮の発生はなく、皮は手で剥くことができるが、温州ミカンよりは剥きにくい。また、皮を剥くときに独特の芳香がある。じょうのう(袋)は非常に薄く、肉質は極めて柔軟で多汁である。す上がりの発生はほとんどない。種は通常入らないが、近くに他の品種があると種が入ることがある。
成熟期は12月で、例年12月下旬で糖度12~13度、クエン酸1%程度となる。
図2 果実品質
写真1 結実状況
若いうちは長大なとげが発生するため、柔らかいうちに除去するなどの対応が必要である。また、果皮が弱く、成熟すると「天草」のクラッキングに似たひび割れが果梗部に生じ、そこから腐敗してくるため、ひび割れの発生前に収穫する必要がある。
写真2 果梗部のひび割れ
写真3 果梗部からの腐敗
栽培特性等データの蓄積がさらに必要であるため、県内各産地での栽培試験を実施している。
(果樹試験場・主任研究員・重松幸典)
本種は、アメリカ合衆国西部を起源とする侵入害虫で、本県のハウスミカンでは、1996年に丹原町と砥部町で初確認された。1997年には、砥部町、伊予市、双海町、さらには吉田町で大きな被害をもたらした。果実のアザミウマ被害(写真参照)は、軽微でも著しく商品価値を損なうため、農家が最も警戒する害虫の一つになっている。そこで、本種の発生消長調査により防除のための誘殺数の目安を設定し、薬剤の防除効果について検討した。
写真1 ミカンキイロアザミウマによる被害果
(1)防除のための誘殺数の目安
吉田町農家ハウスの温州みかん(宮川早生)において、青色粘着トラップ(商品名:ホリバー青)を利用して、2000~2002年に渡り、誘殺されるミカンキイロアザミウマの成虫数を数えた。併せて、トラップ隣接樹の被害果を調査した(加温開始時期は前年の11月下旬、収穫終了時期は7月上旬)。
(2)薬剤の防除効果
双海町農家ハウスの温州みかん(宮川早生)において、図3に示す薬剤を用い、2002年6月21日に動力噴霧器で十分量散布した。調査は、散布前日、散布1、3、7、10、14日後に、マークした30果に寄生するすべてのアザミウマ類を数えた(加温開始時期は前年の12月6日、収穫終了時期は7月下旬)。
(1)防除のための誘殺数の目安
3か年ともに、本種による被害果が発生した。被害果率は、2000年は1.9%と非常に低く、2001年は8%、2002年は6.7%と10%以下であった。トラップ誘殺数においては、被害が問題となってくる着色開始期(5月下旬)以降の平均でみると、2001年が3.4 頭、2002年が1.5頭、2000年が0.1頭の順であり、いずれも4頭以下であった(図1)。調査開始から終了までの日別誘殺数を表したのが図2である。着色開始時期(5月下旬)以降は、2000年はずっと1頭以下であり、2001年は7月上旬に一度だけ5頭、2002年も5月下旬に一度だけ3.1頭と、それぞれ1日当たり3頭を越える日が1回みられた程度であった。
このことから、被害果率の目標を10%以下とした場合、着色期以降の誘殺数を3頭以下/日と設定することが可能である。なお、上記目標を5%以下にした場合は、着色期以前も少ない方(10頭以下/日)が望ましく、加えて、着色開始時期以降は、日別誘殺数を1頭以下に限定する必要がある。
(2)薬剤の防除効果農薬による防除試験(図3)
供試薬剤の中では、スピノエースフロアブルが散布直後の密度抑制効果及び残効性で最も優れていると考えられた。次いでマッチ乳剤、コテツフロアブル、モスピラン水溶剤の順に効果が高く、スプラサイド水和剤とダーズバン水和剤は、上記3剤よりは劣るが、両者はほぼ同等の効果であると考えられた。また、残効性は、スピノエースフロアブルが2週間以上、マッチ乳剤、コテツフロアブルは約2週間、モスピラン水溶剤は約10日間、スプラサイド水和剤、ダーズバン水和剤は約1週間程度期待できると考えられた。
トラップによる誘殺数を調査する場合、ミカンキイロアザミウマ以外のアザミウマ類も同時に誘殺されるため、種類分けが必要である。また、トラップ設置場所によってばらつきがあるため、設置数は2箇所/10aは必要である。さらに、トラップだけに頼らず、ハウス内でも特に着色の早い果実については必ず被害の有無等の確認をし、成虫の寄生がみられた場合には速やかに防除対応する。なお、ネギアザミウマやヒラズハナアザミウマ等が混発する場合、防除効果のある薬剤も異なるため、被害時期、症状及び成虫の形態等から種類を判断し、防除対応する必要がある。
トラップによる誘殺数を調査する場合、ミカンキイロアザミウマ以外のアザミウマ類も同時に誘殺されるため、種類分けが必要である。また、トラップ設置場所によってばらつきがあるため、設置数は2箇所/10aは必要である。さらに、トラップだけに頼らず、ハウス内でも特に着色の早い果実については必ず被害の有無等の確認をし、成虫の寄生がみられた場合には速やかに防除対応する。なお、ネギアザミウマやヒラズハナアザミウマ等が混発する場合、防除効果のある薬剤も異なるため、被害時期、症状及び成虫の形態等から種類を判断し、防除対応する必要がある。
(果樹試験場・主任研究員・金﨑秀司)
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