とびっきりの鮮度と味を誇る海峡の魚
今治市は平成17年に島しょ部を含む越智郡の11自治体が合併し、市域の中央に海峡がある全国でも珍しいまちになった。
潮流の激しい海域のなかでも、「一に来島、二に鳴門、三にくだって馬関瀬戸」と謳(うた)われる来島海峡は日本3大潮流のひとつとして知られ、10ノット(時速16キロメートル)にも達する潮流を生む。市内各所に活き魚料理の店が多いのは、ここからアコウ、カワハギ、ハマチなど豊富な魚種が水揚げされるのと、それらの魚が荒波にもまれて育ったため、身の締まりが良く、全国の食通を唸(うな)らせるとびっきりの素材になっているためだ。
特に鯛は有名で、「刺身」のほか「骨蒸し」「兜煮」「あら煮」「鯛飯」などの料理がある。その中でも豪快さを誇るのが「宝楽焼」。来島水軍が戦勝祝いに食べたともいわれる由緒ある郷土料理だ。春の気配に誘われ、まもなくしまなみ海道が全通する今治に、食べに行くことにした。
今治人の鯛談義
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菊川清会長。郷土料理を根づかせるため、市内の婦人会の人たちに調理を指導している |
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今治郷土料理普及協議会(会員20名)の会長を務める菊川清さんによると、今治の人たちは素材に恵まれ過ぎているためか、あまり料理に工夫をしない傾向があるという。
「私たちは、目の前の海でおいしい魚が捕れ、毎日違う種類の新鮮な魚が食べられる。こんな幸せなことはありません。郷土料理はいわば幸せのおすそわけ。せっかくの素材を生かし、もっとよそから来た人たちにも食べてもらいたいと会を発足させました」
菊川さんに鯛の話を聞くと、昔は「うおじまが来た」といって、海面が盛り上がるほど鯛の群れが産卵にやってきたという。あまりたくさん捕れるので、今治の人は「鯛は買うものではなく、もらう魚だ」と思っている人も多いらしい。鯛がおいしいのは春先で、桜鯛と呼ばれる。特に、来島海峡大橋を目前にした大浜地区の一本釣りで捕った桜鯛は絶品といい、春の小潮時期には多くの釣舟が繰り出すそうだ。産卵を控えた鯛は身に脂が乗り、一度来島の桜鯛を食べたらほかの鯛では満足できないといわれるほどだが、逆に産卵が終わった初夏の鯛は麦秋の季節であることから「麦藁(むぎわら)鯛」とさげすまれ、煮付けなどにされるそうだ。
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| 小石の上には鯛、海老、サザエ、ハマグリなどの魚介類や野菜、ゆで卵が盛られ、彩りが良い |
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一本釣りの漁船が出漁し、鯛をはじめさまざまな魚を捕る。四国本土側の基地である大浜港付近には、活き魚料理を食べさせる店がたくさんある
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桜の咲く頃、島全体が薄紅色に染まる能島(のしま) |
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能島村上氏が居城した能島の前には、「村上水軍博物館」が建てられ、水軍に関心のある人たちが全国から訪れる(今治市宮窪町) |
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水軍料理は豪快に食う
宝楽の名は、かつては豆を煎(い)るためにどこの家庭にもあった素焼きのほうろく鍋を使ったことから付いたという説が有力だが、法会(ほうえ)の終わりに句や歌を詠む「法楽」からきたという説、水軍が使った炮烙(ほうろく)と呼ばれる火薬玉のように、上下に器を重ねて使うことから付いたという説もある。
料理法は、ほうろく鍋の中に小石を並べ、その上に取れたての魚介類を盛って火にかけるだけ。菊川さんによると「近年は宴席料理として広まっているが、もともとは出来上がりの見映えが悪い漁師料理」だという。
そうこう言っている内に、コンロの上のほうろく鍋が食べられる合図のように湯気を出し始めた。蓋を取ると、大量の湯気と共に焼けた魚の香りが立ち上り、食欲を刺激する。
豪快な料理は豪快に食べようと、早速熱々の鯛に箸を入れると、薄い皮の下に白い身が顔を見せ、食べると鯛の味が口の中に一気に広がった。塩だけの簡単な味つけなのにこれだけ旨いのは、鍋で蒸し焼きにするために旨味が逃げないからなのだろう。小石が余分な水分を吸収するので、ほっくりと焼き上がっている。好みで、ポン酢に付けて食べるのもさっぱりして良い。
この宝楽焼きは、今治市内の料理店ならたいていのところで食べられるが、予約をしておくと確実だ。尾道?今治間をノンストップで結ぶ海の高速道路「しまなみ海道」を使えば、本州からわずか1時間で来られるし、美しい島々に下りて、それぞれの土地の味を楽しむのも良い。
瀬戸内の海を縦横に駆け巡った水軍に思いを馳(は)せ、しまなみ海道の美しい景色をめで、豪快に海の幸を食う。来島の旬を閉じ込めた宝楽焼は、海峡のまちならではの味である。
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| 波止浜(はしはま)港と小島(おしま)、来島(くるしま)、馬島を結ぶフェリー。かつて水軍たちが小早(こはや)船で行き来した海路をフェリーが行き来する。来島には砦の柱穴(ピット)など水軍の史跡が残っている |
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| 島が密集している芸予諸島は、地形が複雑で潮流が速いために、しばしば海面に渦が見られる |
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